From 師範代Shinya(新村真也)
カナダのバンクーバーに留学中、散髪屋さんに初めて行ったときのこと。
僕は人生初の、「海外での散髪」を経験しようとしていました。
日本のヘアスタイルの雑誌を美容師さんに見せながら、「こんな感じにしてください。」と説明したものの、その写真を1秒見た美容師さんは、「OK!」と言ってその雑誌を閉じて、机の上に放り投げました。
僕は不安に包まれましたが、
「ちゃんと写真見てくださいよ!本当に大丈夫なんですか?」
なんて英語で言えるはずありません・・・もうここまで来たら、やるしかありません!
ヘアカットスタート!
そんな僕の心配をさらに増幅させるように、美容師さんはバリカンを手に取りました。
え?!バリカンすか??
ハサミじゃなくて、バリカンすか?!
僕は心の中で叫びました!!
次の瞬間!!アジア系の女性美容師さんにものすごい力で頭を押さえつけられました。
同時に、美容師さんは手に持ったバリカンで、僕の首もとから上にかけて、バリバリと刈り上げ始めました!!
ギャーーーーー!!!
焦った僕は、鏡越しに美容師さんに訴えかけようとしました。彼女は愛想の良い表情で笑っています。まったく悪気はなさそうです。
その後も、パワフルに僕の頭の横をバリカンで刈り上げていきました。
美容師さんの手が止まった一瞬のタイミングを見計らって、僕はもう一度、自分が持ってきたヘアスタイル雑誌に手を伸ばしました。
さっきのページを開き、もう一度言いました。
「Just like this!」
(こんな感じでお願いしますね!)
それを見た美容師さんは、またにこやかに笑いながら、
「Sure!」
(もちろんです!)
と言いました。そして、その雑誌をまた僕から受け取ったあと、ページを閉じてテーブルにバサッと置きました。
いやいや!ちゃんと見てよ!
ちゃんと広げて置いといて、チラチラ見ながらやって!!
と言いたいのですが、英語でどう言えば失礼にならずに伝えられるのか分かりません・・・しかも美容師さんは自信たっぷりの表情です。
あれこれ解決策を頭の中で考えているうちに、美容師さんはまた、バリカンのスイッチを入れて、僕の頭をバリバリと刈り始めました。
ぬぉーーー!!ちゃんと伝わってるのか?大丈夫なのか?
もう、僕は無駄な心配をするのをやめることにしました。そして、前向きに考えるようにしました。
(ちゃんと美容師さんに雑誌の写真は見せた!きっと、これがこの美容師さんのやり方なんだろう。最初にバリカンで全体を整えてから、後から細かくハサミで仕上げてくれるに違いない!仕上がりは、きっと写真のとおりになるさ!)
僕は、流れに逆らうのをやめ、運命に身を任せることにして、ゆっくり目をつぶりました・・・
仕上がり
しばらくして、美容師さんが手を止めました。どうやら終わったようです。
おそるおそる目を開けると・・・
僕は、自分の目を疑いました!!
ミリ単位まで短く刈り上げられた、頭の横と後ろ部分。
刈り上げ部分は、上の方までまっすぐ伸びていきます。
そして、一番上の頭頂部は、3センチくらいの長さで切り揃えられ、水平です。真っ平らです・・・
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角刈りやんけ!!
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角刈りやんけ!!
写真と全然違うぞーーーーー!!
そう!僕の髪型は、完全に「角刈り」になっていました。
横と後ろが青くなるくらいまで短く刈り上げられています。
見た目の雰囲気は、「北朝鮮の軍人」です。
今もし、歩幅をビシっと揃えて歩く北朝鮮の軍人たちの中に混じっても、バレないような気がします。
無意味な投資
あーーー!!なんてこった!!せっかくヘアスタイル雑誌まで買って持ってきたのに・・・
絶望感に打ちひしがれる僕に、美容師さんはにこやかに笑顔を向けながら、僕にヘアスタイル雑誌を手渡しました。
「この写真のとおりにしてやったわよ!満足でしょ?」
といった表情です。
きっと、美容師さんの中ではこの角刈りが、あの雑誌の通りに切った結果なんだと思います。
バキューム!!
その後、美容師さんは掃除機を僕の頭に押し当てて、切った髪の毛を吸い取ろうとしました。
めちゃくちゃパワフルな掃除機なので、僕の首回りの肉が吸い込まれます。
痛タタタタ・・・
頭皮だけでなく、首の肉やホッペタまで吸い込まれそうになります。
あぁ、大ざっぱだ・・・
もちろん、シャンプーもセットもありません。掃除機で吸ったらおしまいです。
僕は、代金を支払って美容院を出ました。
まだダメージから立ち直れません。自分の英語力不足で伝え漏れがあってこうなったのなら、まだあきらめがつきます。
でも、今回は準備バッチリでした。40ドルも出して日本のヘアスタイル雑誌を買ったのに・・・無駄な投資になってしまいました・・・
僕は、すぐに帰る気になれず、通りをしばらく歩きました。すると、それまであまり気にしていなかった男性たちの髪型が目に飛び込んでくるようになりました。
みんな、どんな髪型にしてるんだろう?
そこで、衝撃的な事実を目の当たりにしました。
通りを歩いている男性は、みんな同じ髪型なのです!!みんな「角刈り」です!!
白人もアジア人も黒人もインド人も、みんな「角刈り」か「坊主頭」です。たまにミュージシャンぽい人で長髪の人もいますが、その中間の長さの人はいません。
みんな同じ髪型なのですが、髪の色や肌の色が違うため、違って見えるのです。(特に白人の金髪はカッコよく見えます)でも、形だけよく見ると、みんな角刈りなのです。
もし、「流行」という言葉が、「みんなが今やっているスタイル」という定義なら、僕は角刈りになったことにより、バンクーバーの「流行」に乗ったことになります。
きっと、この辺の散髪屋さんで働く美容師さんたちの間では、男性客が来たら「角刈り」にするのが当たり前なのでしょう。
ホストファミリー絶賛!!
気を取り直した僕が、家に帰りました。ホストファーザーのジョンが、僕の新しい髪型を見るなり、興奮した表情で、大きな声で言いました。
「Oh! You look nice!」
(カッコいいじゃん!)
「You’ll be popular with Canadian girls!」
(カナダの女の子たちにモテるぞ!!)
そうか!やっぱりこの「角刈り軍人スタイル」は、カナダではカッコいいのか!!モテるのか!!
クラスメイト絶賛!!
次の日、学校に行っておそるおそるみんなのリアクションを見ました。
すると、みんな「You look nice!」と言ってくれました。さすがに、女性たちが寄ってくることはありませんでしたが、少なくともこの角刈りは、世界レベルで見ても「イケてる」ことが分かりました。
というか、よく見たらクラスメイトの男子たちもみんな角刈りでした(笑)
髪の色と彫り深さで、顔が違って見えるだけです。
そうか!角刈り軍人スタイルは、日本の外ではカッコいいのか!
そう思い直した僕は、ヘアスタイル雑誌を無視して僕を角刈りにしてくれた美容師さんに、感謝しました。
僕はこのとき、「文化が違えば、カッコいいヘアスタイルも変わる」ことを学びました。
(・・・つづく)
P.S.
この後、僕はすっかりカナダに馴染んで、角刈りをカッコいいと思い込んでいました。でも、日本に帰国すると、家族や友達から「中学生みたい!」「軍人みたいだ!」と言われ、大爆笑されました。日本ではどうやら角刈り効果は通じないようです・・・
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(やり直し英語達成道場 師範代)
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