From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕がジーンズショップで働いていた頃、初めて英語のテキストを買って外国人のお客さん相手の英会話を経験した時のエピソードの続きです。
アグレッシブな黒人男性客に対して、「接客フレーズ集で覚えた完璧なセリフ」でリベンジした僕は、さっきまでの緊張感がだいぶ解けていました。
予想通り、その黒人男性は僕のことを「本当は英語が話せる店員」だと思ったらしく、レジのところで僕に超早口で色々と話しかけてきました。
でも僕は、「英語フレーズ丸暗記型店員」です。「英語フリートーク型店員」ではありません。
また、最初の状態に逆戻りしてしまいました。でも僕は、この間に対策を練ってありました。
それは、「聞き取れない時の聞き返しフレーズ」を使うことです!
Could you say that again?
(もう一度言ってもらえますか?)
Could you speak more slowly?
(もう少しゆっくり話してもらえますか?)
Sorry, I don’t understand.
(すみません、分かりません)
この3つのフレーズも、接客英会話フレーズ集の本に載っていました。
それを僕は、文法ではなく「音」で耳コピーして覚えていました。
この2つのセリフをアグレッシブな黒人男性に対して使ったら、果たしてどんな反応が返ってくるのか?
とりあえず、使ってみよう!
リベンジ開始!
僕:「Could you say that again?」
彼:「○×△□!」
う~ん、2回聞いても分からない・・・よし!次は・・・
僕:「Could you speak more slowly?」
すると、相手の黒人男性は「そう来たか!」と、ちょっとびっくりしたような表情で、不満そうにゆっくりしゃべり始めました。
彼:「○ × △ □」
う~ん・・・ゆっくりしゃべられても、知らない英単語は聞き取れないな・・・まあ、試しにもう一度。
僕:「Could you say that again?」
彼:「○×△□!」
あら!話すスピードがまた速くなっちゃった!
僕ら2人のやりとりを見て、後ろに並んでいる仲間の米軍兵士たちがクスクスと笑い始めました。
きっと、僕らのやりとりは漫才みたいに見えていたのかも知れません。
これ以上引っ張るのも時間のムダかな?と思ったので、僕は最後の切り札を出しました。
意外なリアクション
僕:「Sorry, I don’t understand.」
すると彼は、しばらく黙ってから、数秒後に僕の目をまっすぐに見つめて、こう言いました。
彼:「OK! Thank you!」
たしかに彼は僕に、「Thank you! = ありがとう」と言いました。
僕は彼の言葉を全く理解できなかったのに、です。
最初に彼がお店に入ってきたときに彼が話しかけてきて、僕がまったく聞き取れずにオロオロしながらひと言も返せなかった時には、こんな雰囲気ではありませんでした。
その時は、「ハァ~!」とため息をついて頭を横に振りながら離れていきました。
彼はそれでもあきらめずに、その後5分おきぐらいに僕に何度も話しかけてきました。
その度に「ハァ~!」と大きなため息をつかれる・・・という、同じようなやりとりが何度も続きました。
僕は彼を「なんて失礼なヤツだ!」と思い、プンプンしていました。
でも、こうして面と向かってやりとりしながら何度か聞き取ろうとして、さらに「分かりません」とハッキリ正面切って伝えたら、彼は「ありがとう」と言ったのです。顔の表情も、さっきまでとは違って、真剣でした。
これは意外でした!
僕はこの時、「逃げずに真正面から向き合えば、結果はどうあれ相手は自分のことを認めてくれる、そんな文化が西洋にはあるのかも?!」と思いました。
僕が英語のフリートークができないことは、最初の時点でバレていました。
でも、2回目に僕が自分の中に持っている最大の英語力を振り絞ってぶつけたことで、明らかに相手の態度が変わったのです。
実は、この出来事があった数年後に、僕は同じような現象を外国人の集まるバーで何度か経験しました。
「何かを一生懸命やっている人に対して、一目置く」
という価値観は、きっと西洋文化にあるんだと思います。
日本の学校や社会でたまに僕が経験してきた、「あいつ必死こいちゃって!でも全然ダメじゃん!カッコワル!」みたいな見方をしないんだな、と新鮮な驚きがありました。
もちろん、これは全員に当てはまることではないので、西洋人でも頑張っている人をバカにしてくる人もいるとは思います。
ただ、少なくともこれまで僕が出会った西洋圏の人たちは、「必死にやっている人に一目置く」という価値観を持っている人がほとんどでした。
その第一号が、このアグレッシブな黒人男性だったのです。
・・・つづく。
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