from 師範代Shinya
※僕が高校時代に所属していた剣道部で経験した「叱る依存システム」の体験談の続きです。
「今回は、どんな叱られ方をするんだろう?」
僕は、A君と一緒に試合会場に連れ戻されるまでの道中、ずっと頭の中で恐ろしい想像を張り巡らせていました。
一発二発殴られるだけでは済まないだろうな・・・顔が腫れるまでビンタされるとか?
それか、もっと地味に「ケツ竹刀」を何十発も食らうとか?
それもイヤだなぁ~・・・
ふと2年生のI先輩を見ると、僕らと同じように苦悶の表情を浮かべながら、静かに歩いていました。
おそらくI先輩も、試合会場に戻ったら3年生から叱られます。いえ、すでにここに来る前に叱られていたのかもしれません。
さらに、OBのT先輩がこのことを知れば、T先輩から直接、さらに激しく叱られることを想像して、恐怖におののいていたのでしょう。
この時のI先輩の脳内は、おそらく僕とA君と同じ「防衛モード」に支配されていたのではないかと思います。
防衛モードでは自己保身が最優先になる
最近僕が読んだ本「叱る依存が止まらない」によると、叱ることで起こる弊害は、「叱られた人の脳が防衛モードに入ることで、自分の保身しか考えられなくなる」ことだそうです。
本来ならば、僕とA君に「部の人たち全体に迷惑をかけた。申し訳ない」という気持ちを持たせて反省してもらい、次回から同じことを繰り返さないようになってもらうのが、叱る目的のはずです。
「反省する」というのは、人間らしい行為です。社会的な生き物である人間だからこそ、できることでしょう。
でも、「激しく叱ること」は、人間のそういった知性の機能を抑えてしまうそうです。
原始的な本能である「防衛モード」が呼び覚まされることで、叱られた人は自己保身を最優先するようになるのです。
そしてこの本能が発動したのは、その場にいた僕たち3人だけではありませんでした。
3年生の先輩たちの反応
試合会場に着くと、3年生の先輩たちが僕らを取り囲みました。OBのT先輩の姿はありません。
部長のK先輩が、腕組みをしながらあきれた顔で僕らを見ながら、
「おまえらなぁ・・・」
とつぶやきました。
2年生のI先輩が、僕とA君の頭を押さえつけて下に押しながら、
「ほら!すぐに謝れ!」
と言いました。
「すいませんでした!」
僕らは大きな声で叫びました。
もしここが閉ざされた空間のいつもの部室だったら、すぐにヤキ入れ(体罰)が始まったでしょう。
でも、ここは試合会場です。周りにたくさん人がいます。
僕は内心、「この状況なら、今すぐはやられないかも?!」と思いました。
部長のK先輩が言いました。
「本当は、言ってやりたいことが山ほどあるけど、俺たちは今から試合だ。ここでおまえらにエネルギーを使う余裕はない。とにかく、ここでおとなしくしてろ。分かったな?」
「はい。分かりました。」
そして、その場は驚くほどあっさり終わりました。
帰ったらいきなりひっぱたかれると思っていた僕は、拍子抜けしてしまいました。
でも、まだ安心はできません。試合が終わった後に、人が少ない場所に連れて行かれて、ボコボコにされる可能性が残っています。
予想外の展開
僕はその後、「会場の試合時間が終わらないこと」を心で祈っていました。
終了時間が怖くて仕方なかったからです。
いよいよ試合が終わってしまいました。
OBのT先輩を含めた全員が集まって、いつものように反省会が始まりました。
始まる前に、2年生のI先輩から、
「今日の件に関しては、おまえらは何も言うな。ただ俺たちの話を聞いていればいい。分かったな?」
と釘を刺されいました。
僕は、この言葉を「口答えをするな」という意味だと思いました。
反省会が始まると、僕は「いつ自分とA君が公開処刑されるのだろう?」と、ドキドキしながら聞いていました。
ところが、その日は何事もなく終わったのです。
恐怖のOBのT先輩からも、何も言われませんでした。
でも、まだ油断はできません。
3年生が試合で疲れていて、僕らにヤキ入れする体力が残っていないだけかもしれないからです。
翌日、僕とA君は覚悟を決めて、部室に行く前に「ヤキを入れられる練習」をしました。
お互いの顔を軽くビンタし合って、歯を食いしばるタイミングや、痛みに慣れる練習をしたのです。
本番は、こんなもんじゃ済まないだろう!
そう思いながら、ドキドキしながら部室に向かいました。
ところが・・・その日は何もありませんでした。
いつも通りの練習が行われ、誰も何も、僕らに言ってこなかったのです。
その後、2日たっても、3日たっても、僕とA君の起こした「不祥事」に関して、誰も触れてきませんでした。
僕とA君も、わざわざ自分からその話を持ち出して「あの~、こないだのゲーセンの件は、おとがめなしですか?」なんて聞く度胸は、ありませんでした。
代わりに、僕らのリアクションは「ラッキー!何事もなかったぜ!あ~ビビッて損した~!」という感じでした。
この「ビビって損した」という思考は、全然反省していないし、脳が「学びモード」になっていない証拠と言えます。
これが、普段から叱られることで脳が「防衛モード」に入った時の弊害と言えるでしょう。
もちろん、日常的に叱られる状況でも知性を発揮して、学ぶ姿勢を保てる人もいるでしょう。
でも、それは決して多数派ではありません。
ごく一部の、少数派だけなのです。
そして僕は、少数派ではないことは確かです。
・・・つづく。
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