From 師範代Shinya(新村真也)
(最近行ってきたカリブ海クールズ10日間の旅での体験談のシェアの続きです。)
(→前回のつづき)
メキシコのホテルのビュッフェスタイルの朝食レストランに入ったときのこと。
自分で選んだメニューをテンコ盛りにしたお皿を持っている僕と妻に近づいてきて、メキシコ人ウェイターさんが言ったセリフ、
Let me have it for you.
僕の聞き違いでなければ、ウェイターさんは確かにそう言いました。
僕は、これを聞いたとき、意味が分からずに3回連続で聞き返してしまいました。
でも、妻はすぐに意味を理解しました。
妻:「このお皿を私たちのテーブルに運んでくれるって言ってるんじゃない?」
僕:あっ!そいういうことか!
どうやら妻の翻訳は正しかったようで、ウェイターさんは、僕らのお皿を僕らの席に運んでくれました。
ウェイターさんの話す英語は、スペイン語なまりの発音だったので、本当は違う事を言っていたのかどうかは分かりません。
でも確かに、3回聞き返した僕の耳には、
Let me have it for you.
と聞こえました。
この文章の意図が僕には理解できず、妻に理解できた理由は、しばらくして分かりました。
僕はこの文章で使われている英単語を「ネイティブ感覚」で捉えていたからです。
僕の脳内にある「ネイティブ感覚」が、メキシコ人ウェイターさんの話す「非ネイティブ英語」の理解を妨げていました。
なぜ、この英文はおかしいのか?
このウェイターさんの英語のセリフには、文法的な間違いはありません。
ただ、英単語のチョイスが変なのです。
Let me have it for you.
具体的に言うと、「have」の使い方が違います。
このウェイターさんがこの場で伝えたかったメッセージとは違って聞こえるのです。
haveは、中学校では「持つ」とか、「持っている」と教わります。
妻がこのウェイターさんのセリフを理解できたのは、「have=持つ」と覚えていたからです。
Let me have it for you.
(それを持って行きましょうか?)
と妻は訳したのです。そして、ウェイターさんの意図していたことも、まさにその通りでした。
でも、僕の脳内では「have」の意味は、「持つ」ではありません。
なので、混乱してしまいました。
僕の耳にはこの英文がまったく違って聞こえました。
僕は、イメージ英文法を習い始めた10年ほど前から、「have=持つ」という従来の意味を書き換えて脳内にストックしていたからです。
(ちなみに、Let me ~という言い回しは、「私に~させてください。」という意味で、人に手助けを申し出るときの丁寧な表現です。)
「have=持つ」ではない
たしかに、「have=持つ」でも自然に訳せる時もあります。
たとえば、
I have a car.
(私はクルマを持っています)
とか、
I have a lot of money.
(私はたくさんお金を持っています)
とか言うときには、「have = 持つ」でも意味が通ります。
でも、英語のhaveは、実はもっと意味が広いのです。
そして、ネイティブの頭の中では、「have = 持つ」ではありません。
次の例文を見てください
I have a brother.
(私は兄弟を持っています)
My house has 2 bedrooms.
(私の家は、2つベッドルームを持っています)
My smart phone has a good camera.
(私のスマホは、良いカメラを持っています)
どうでしょうか?
なんか変な訳に聞こえますよね?
どの例文も、「持っている」では変な感じです。
正しくは、
I have a brother.
(私には兄弟がいます)
My house has 2 bedrooms.
(私の家には、ベッドルームが2つあります)
My smart phone has a good camera.
(私のスマホには、良いカメラが付いています)
になります。
これなら自然な訳に聞こえますよね?
いる、ある、付いている・・・こんな風に、haveの意味は無限大にあります。
ちなみに、辞書でhaveの意味を引くと、37個も違う意味が出てきます。
こんなの覚えられないよ!
と思いますよね?
大丈夫です。ネイティブも、37個も覚えているわけではありません。
ネイティブの中でhaveの意味(イメージ)は、たったひとつです。
それは、「生活の中にある(いる)」です。
生活というのは、自分の手の届く範囲、縄張りと言い換えることもできます。
I have a brother.
(私には兄弟がいます)
これは、自分の生活の中に、兄弟がいるという意味です。
同じように、クルマがある、家がある、仕事がある、家族がいる、などなど、いろんなものをhaveできます。
人だけではなく、モノが別のモノをhaveすることもできます。
My house has 2 bedrooms.
(私の家には、ベッドルームが2つあります)
↑この文章は、「私の家のテリトリー内にベッドルームがある」と言っているのです。
My smart phone has a good camera.
(私のスマホには、良いカメラが付いています)
↑この文章は、「スマホがアクセスできる機能の中に、良いカメラがある」と言っています。
食べ物&飲み物もhaveできる
ちなみに、食べ物や飲み物もhaveできます。
I had breakfast this morning.
(今朝、朝食を食べました)
I had coffee this afternoon.
(今日の午後、コーヒーを飲みました)
I’ll have chicken please.
(チキンをいただきます)
最後の例文は、レストランなどで注文するときの決まり文句です。
haveを使うと、「動き」のニュアンスが感じられなくなるので、eatやdrinkなどの動きを表す英単語から連想する「ムシャムシャ感」や、「ゴクゴク感」を打ち消して、上品な響きを醸し出すことができます。
「have = 生活の中にある」
これが、ネイティブの感覚です。
この英文が変な理由
では、ここでもう一度、さっきのメキシコのレストランの店員さんのセリフを思い出してみましょう。
Let me have it for you.
さあ、今のあなたになら、意味が分かるはずです。
Let me ~は、「~させてください」という意味でしたね。
it は、僕がビュッフェで選んだ朝食です。
この例文がネイティブが聞いたら、こう聞こえます。
Let me have it for you.
(その朝食を、私があなたの代わりに食べてあげましょう)
全然意味が違いますよね?(笑)
僕はこれを聞いたとき、自分の耳を疑いました。
英単語のチョイスの間違いは、このようにまったく違った意味で捉えられてしまうことがあります。
日本人とメキシコ人は近い?
今回の一件で感じたことは、メキシコ人も、「have = 持つ」と学校で教わっているようだ、ということです。
もしかして、日本人とメキシコ人は同じような英語教育を受けているのかも知れませんね。
だとすると、英単語のチョイスや文法のミスなどが日本人にとっては理解しやすいのかもしれません。
事実、メキシコ滞在中は、僕より妻の方が圧倒的に高いリスニング力を発揮していました。
しゃべりでも、僕の話す英語はあまり通じなくて、妻の方がずっとスムーズにメキシコ人とコミュニケーションを取れていました。
妻の英語力は、推定でTOEIC300点前後と思われます。
アメリカの空港やホテル、レストランなどでは、僕が先陣を切ってスタッフに対応していましたが、メキシコでは妻が力を発揮し、立場が逆転しました。
それが今回の面白い発見でした。
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