【子供が生まれた日⑥】

From  師範代Shinya(新村真也)
 
(→前回のつづき)
 
 
血の気を失って真っ白になったサヤを見ながら、この数時間がいかに危険な状態だったかを、改めて感じました。
 
 
止血処置は成功したということで、看護師さんたちは病室からいったん去って行きました。
 
 
僕とサヤの2人だけが病室にいる状態になりました。
 
 
コロナの状況では、いつ「容態が落ち着いたので旦那さんは出て行ってください」と言われるか分かりません。
 
 
とりあえず、いられるだけいようと思いました。
 
 
サヤは意識はしっかりしていて、「のどが乾いたから、水を飲ませて欲しい」と言いました。
 
 
酸素マスク越しに見える唇が、カサカサに乾いています。
 
 
ちょうどそのタイミングで看護師さんが様子を見に来てくれたので、ストローをもらってペットボトルに差して、サヤの横から飲ませました。
 
 
その後は看護さんは、20分ごとぐらいに様子を見に来てくれました。
 
 
加えて機械が常に血圧や心拍数をチェックしてくれているので、安心感があります。
 
 
こういった救急処置の設備や人員がバッチリ揃っているからこそ、この病院が救急搬送先に指定されているんだな、と思いました。
 
 
 

命の水

水を飲むと、まるで乾いた土に水を染みこませたように、サヤの唇のカサカサが一気にうるおってきました。
 
まさに、命の水です。
 
 
たしかに、血を失う=水分を失うとも言えます。
 
 
口の中が潤ってしゃべりやすくなったサヤは、これまでいかに大変だったか?いかに処置が激痛だったか?をポツポツと話し始めました。
 
 
僕は話を聞きながら、「こうしてしゃべれるだけの力が残ってて良かった」と思いました。
 
 

カメラの中の写真

しばらくするとサヤは僕に、バッグの中からカメラを取り出すように言いました。
 
 
僕がカメラを取り出して電源を入れると、最後に撮られた写真データが出てきました。
 
 
その写真には、ベッドの上で真っ白い顔になったサヤが、酸素マスクを外した状態で、赤ちゃんと一緒に笑顔で映っていました。
 
 
同じ位置から撮られた写真が何枚かあって、最後の一枚だけがとっても良い笑顔になっていました。
 
 
他の数枚は、目がうつろになっていたり、笑顔が作れずにツラそうな表情になっていました。
 
 
最後の1枚は、サヤが力を振り絞って満面の笑顔を作っているのが伝わってきました。
 
 
サヤが言いました。
 
 
サヤ:「実は私、この病院に運び込まれる前に、貧血ですっごい具合が悪くなったの。それで、もうダメかも・・・って一瞬思って。
 
 
でも、ここでもしこのまま私が死んだら、この子が大きくなった時に、『私が生まれたせいでお母さんが死んだんだ』って思って、傷つくと思ったの。
 
 
それだけはどうしても避けたかった。生まれてきてくれて、私は幸せだったよ!って伝えたい・・・でも、手紙を書く力は残ってない。だからせめて、一緒に笑顔で映っている写真を残しておきたいと思ったの。
 
 
だから、救急搬送される前に看護師さんに頼んで・・・・みんなバタバタしてたけど、どうしても一緒に映ってる写真を撮って欲しいって頼んで。笑顔ができるまで何枚も失敗してやり直してもらったけど、これだけは絶対譲れないって思って。
 
 
このカメラに残しておけば、もし私が死んでも、シンちゃんが後から気付いてこの子に見せてくれるはずだって思ったから。」
 
 
僕は写真を見ながらこの話を聞いて、枯れていた涙がまたあふれ出してきました。
 
 
そして、「女性というのは何てスゴいんだ!」と驚きました。
 
 

死の淵でも我が子を想う

自分の命が危険にさらされている時にも、生まれてきたこの子の未来のハートブレイクを防ぐために、全力で笑顔の写真を残そうとする・・・
 
 
これはまさに、「無条件の愛」だと思いました。
 
 
そして、我が子を守ろうとする母親の本能かのかもしれません。
 
 
男性だったらおそらく、自分が死ぬ前に「この子と妻が路頭に迷わないように、お金を残しておかねば!」というような発想になると思います。
 
 
でも女性は、「この子が感情的に傷つかないようにしなければ!」という発想になるようです。
 
 
自分の命をかけて子供を産んで、自分の命が危険にささられている時にも子供の感情を考える・・・
 
 
僕は女性の強さを、サヤの強さを感じました。
 
 
・・・つづく。
 
 
 
 

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2件のコメント

出産は文字通り命懸けなのですね。
大変な思いをされた後だと思うと、三人の幸せそうな笑顔の写真が、とても美しくて、よりいっそう素敵に見えます。
ご子息のご誕生、本当におめでとうございます。

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