From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕が20才の頃、「アクション俳優になろう!」と決めて、「俳優養成所」に入った時のストーリーの続きです。
めちゃくちゃ恐いヒゲ先生のレッスンは、いきなりハイレベルな要求を突きつけられました。
「声のトーンと顔の表情だけで、見ている人の頭の中に映像がハッキリ浮かんでくるようになれば合格」
と言われても、僕はプロの役者のナマ演技を目の前で見たことがありません。
テレビドラマや映画を見て感動したことはありますが、テレビや映画の場合はシーンに応じたスタジオセットの中で撮影しているので、「見ている人の想像力をかき立てる」とはちょっと違う気がします。
さらにBGMもあるので、演技以外の部分で気分が盛り上がる感じがします。
実物を見たことがなければ、どうもしっくり来ません。
そんなことを考えていたら、ヒゲ先生が言いました。
ヒゲ先生のデモンストレーション
ヒゲ先生:「では初回の今日は、私が例を見せます。これができたら合格点、という基準が分からなければ、どこを目指せば良いのか分かりませんので。」
僕の心の声:(そうそう!今、ちょうどそう思ってたんだよ!そんなに俺たちに厳しく要求するなら、ヒゲ先生の実力はどれほどのものか?こっちも厳しくジャッジするぞ!)
ヒゲ先生は両手に何も持たずに、僕らの前に立ちました。
ヒゲ先生:「トロッコの本の中から一部抜粋して朗読します。まずは何も考えずに、私がやるのを見てください。本は開かなくていいので、私の表情や声のトーンをしっかり観察してください。」
そう言うと、ヒゲ先生は静かに朗読を始めました。
ヒゲ先生は最初にゆっくりとしたペースで静かに話し始めました。
雰囲気は静かですが、目力があって引き込まれます。
ストーリーが緊迫してくるシーンになると、先生はだんだん声のトーンを上げていきました。
そして1つ目の山が来た時には、ヒゲ先生の声の大きさは教室内どころかビル全体に響き渡るほどになっていました。
そして、とても激しい表情を見せました。
スゲー!!!
僕らはあっけに取られて見ていました。
その後また落ち着くシーンでは、ヒゲ先生は穏やかな表情になり、声もすごく小さくなりました。
小さい声の時にはグッと引き込まれる感じがします。
そして、大きな声はドカン!と熱いものをぶつけられているような感じがします。
アップ&ダウンが激しくて、まるでジェットコースターに乗っているような気分でした。
別次元
朗読が終わると、先生は静かに言いました。
「以上です。」
僕らは圧倒されて、静まり返っていました。
拍手は起こりませんでした。
ヒゲ先生のキャラが恐すぎて拍手していいのかどうか分からないというのもありますが、それ以上に演技に圧倒されてしまい、みんなしばらく余韻に浸っている感じでした。
学校の授業の国語の朗読とは別次元のレベルです。
スゴい!!演技力だけでこんなに人の心を動かせるのか!!
ていうか、トロッコってこんなに激しいストーリーだったけ?
たしか学校の国語の授業でトロッコを読んだ記憶があるけど、内容なんてまったく覚えてないなぁ・・・
きっとこれは、ヒゲ先生の演技力が、作品のイメージを大きく変えているに違いない!
プロの技
今振り返ると、プロの役者のフルパワーの演技を目の前で観察したのはこの時が初めてでした。
ヒゲ先生と出会う前に僕が受けていたクラスの先生たちは、レッスン中にやり方の説明はしてくれますが、実際にお手本をやって見せてくれることはあまりありませんでした。
やっぱりプロは違うなぁ~!
これはスゴい!!ヒゲ先生もデカい態度を取るだけのことはあるなぁ!
・・・え?ということは、このレベルの演技を自分たちもしなきゃダメってこと??
要求されているのは今の内容ってこと??
えーーーー!!無理だよ~!!
我に返った僕は、改めて「とんでもないクラスに来てしまった!」と思いました。
・・・つづく。
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