From  師範代Shinya(新村真也)
 
(→前回のつづき)
 
※僕が20才の頃、「アクション俳優になろう!」と決めて、「俳優養成所」に入った時のストーリーの続きです。
 
 
超厳しくて恐い先生のレッスンが始まりました。先生は50代半ばぐらいで、白髪混じりの短髪と口ひげをたくわえた、メガネをかけた小柄な男性です。(ここではヒゲ先生と呼びます)
 
 
ヒゲ先生は見た目の威圧感はないのですが、話し方や声のトーンはものすごい威圧感があります。
 
 
単に大声で怒鳴り散らすだけの人なら、時間と共に慣れてくるのですが、ヒゲ先生はプロの役者だけあって、声色を何種類も使い分けてきます。
 
 
静かな威圧感と爆発的なエネルギーの大声を織り交ぜられると、まるでジェットコースターのようにハラハラドキドキしてくるのです。
 
 
また、話し方も急に変わります。低いトーンの時には、ヒゲ先生は丁寧な敬語を使います。
 
 
「~します」「~してください」
 
 
みたいな感じです。
 
 
でも、怒りのパワーを出すときには荒々しい言葉遣いになるのです。
 
 
「ナメてんのかテメーーー!!」
 
 
「ふざけるな!!」
 
 
といった感じで、別人のような言葉遣いになります。そこがまた恐いのです!
 
 
よく、「ふだん穏やかな人ほど、怒ると恐い」と言われますが、あれは「静と動」のギャップが、見ている人の恐怖を生み出しているんだと思います。
 
 
ヒゲ先生は、このギャップを意図的に作り出しているようなのです。
 
 
「声のトーンの変化」と「言葉遣いの変化」
 
 
この2点を意図的に使いこなしている点が、ふつうの会社にいるパワハラ上司とは違います。
 
 
僕は18才で鉄工場に就職してから3年間、気の荒い親方に毎日のように怒鳴られていたので、だいぶ慣れているつもりでした。
 
 
でも、ヒゲ先生は親方とは全然違う種類の恐怖を感じました。
 
 
プロの役者が作り出す、「リアルな恐怖感」に飲み込まれていく感じです。
 
 
(おそらくこの怒りのパワーは演技なんだろうな・・・)と頭では分かっているのですが、ヒゲ先生と同じ空間にいると、心が恐怖に引き込まれてしまうのです。
 
 
それはまるで、
 
 
「演劇の舞台を見ていて、すべて演技だと分かっているのに、ハラハラドキドキしたり、もらい泣きしてしまう」
 
 
のと似ています。
 
 
ヒゲ先生の前で恐怖を感じてしまうのは、もはや不可抗力です。
 
 
 

恐怖のやり直しルール

ヒゲ先生が僕らに与えたお題は、芥川龍之介の短編小説「トロッコ」を家で読んできて、内容をすべて覚えた後に感情を込めて朗読することでした。
 
 
レッスンの時間は「家でやってきたことを発表してヒゲ先生からフィードバックを受ける場」という感じです。
 
 
これはめちゃくちゃ緊張すること間違いなしです。
 
 
ヒゲ先生:「声のトーンと顔の表情だけで、見ている人の頭の中に映像がハッキリ浮かんでくるようになれば合格です。できなければ、何度でもやり直してもらいます。」
 
 
僕の心の声:(う・・・何度でもやり直す・・・か。この先生なら本当にやりそうだな・・・)
 
 
ヒゲ先生:「途中でつっかえた場合もやり直してもらいます。」
 
 
(え?つっかえることも許されないの?)
 
 
ヒゲ先生:「それから、ここでは標準語のイントネーションで話してもらいます。役者は標準語のイントネーションができないと仕事が限られてしまいます。」
 
 
(うおっ!これは厳しい!方言のイントネーションは長年かけて身に付いちゃってるだろうから、抜くのは大変だろうなぁ・・・静岡人の話し方は標準語なんだろうか?今まで気にしたことなかった)
 
 
ヒゲ先生:「私は方言をバカにしているのではありません。このレッスン中では標準語で統一する、と言っているだけです。もし標準語と違うイントネーションでしゃべってしまった場合は、何度でもやり直してもらいます。」
 
 
(え~?またやり直し??これはキツい!!何度もやり直させられる人続出じゃない?)
 
 
ヒゲ先生:「何度もやり直すと、他の人の発表の時間をどんどん奪うことになります。最初の人がつっかえ続けたら、そのままレッスンが終わることもあり得ます。」
 
 
(そうだよ!どうするの?)
 
 
ヒゲ先生:「例外はありません。私はやると言ったらやります。」
 
 
(あ・・・これは本気だ。間違いなく毎回荒れるレッスンになりそうだ・・・)
 
 
ヒゲ先生:「では初回の今日は、私が例を見せます。これができたら合格点、という基準が分からなければ、どこを目指せば良いのか分かりませんので。」
 
 
(おっ!お手本を見せてくれるの?そんなに俺たちに厳しくするなら、どれほどのものか?こっちも厳しくジャッジするぞ!)
 
 
思い返せば、僕ら生徒の目の前で「本気の演技のお手本」を見せてくれた先生は今までにいませんでした。
 
 
僕はちょっと楽しみになってきました。
 
 
・・・つづく。
 
 
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