From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕が20才の頃、「アクション俳優になろう!」と決めて、「俳優養成所」に入った時のストーリーの続きです。
震え上がるほどの恐怖体験から始まったヒゲ先生のレッスンは、不思議なことに回数を重ねるにつれてだんだん楽しくなってきました。
生活にハリが出てきたのです。毎週日曜日のレッスンに備えて、課題の文章を毎日音読しながら仕上げていく作業には、とてもやりがいを感じました。
自分が成長しているのを実感できました。
僕はこの時の経験から「楽しさの質」には違いがあることが分かりました。
楽しい=ラク
というわけではないと気付いたのです。
以前僕が受けていたのは「ラクで楽しい」レッスンでした。
でもヒゲ先生のレッスンは「やりがいがあって楽しい」レッスンです。
始まった時にはあまりに恐くて、どうなることかと思っていましたが、まさかこんなに楽しく感じるようになるとは自分でも驚きでした。
僕以外のクラスメイトたちも、明らかに以前とは目の輝きが変わってきていました。
フィードバックのタイミング
僕はみんなの発表とヒゲ先生のフィードバックを見ていて、もうひとつ気付いたことがありました。
それは、「ミスの訂正のタイミング」です。
【Before】
最初の1回目の発表タイムの時のヒゲ先生は、こんな感じでした。
↓↓↓
発表中にちょっとでもセリフの言い回しを間違えると、ヒゲ先生はすぐに止めてきます。
セリフを間違えた瞬間、低い声で
「もう一度!」
と言ってくるのです。
それから正しい言い回しを思い出すまで何度でも「もう一度!」「もう一度!」と繰り返してきます。
もちろん、正解を教えてくれることはありません。
本人が正解にたどりつくまで続きます。
ツラ過ぎて途中で泣き出す人が続出しました。
まさに「無限地獄」です・・・
【After】
でも、しばらく回数を重ねるにつれて、ヒゲ先生はフィードバックの仕方をこんな風に変えてきました。
↓↓↓
発表者が全力でそのシーンに感情移入している時には、たとえセリフを言い間違えても、セリフを丸々飛ばしても、ヒゲ先生は何も言いません。
発表が全部終わった後に、もう一度さっきの場所を指摘して「今だったら正しく言えるか?」を確認してきます。
もしこの時点で正しく言えれば、何もおとがめ無しです。
正しく言えなくても、以前のように何度も言い直させることはありません。
「席に戻ったらちゃんと確認しておくように。」
とだけ伝えて、次の発表者に移ります。
発表中に止められないと分かると、僕らはさらに集中して発表できるようになりました。
「間違いの質」の違い
この変化を見て僕は、最初にヒゲ先生がなぜあれほど厳しく言い直させたのかが何となく分かってきました。
最初の頃の発表の言い間違いは、単に「練習不足」です。
でも、回数を重ねてきた頃の発表中の言い間違いは「感情が高ぶりすぎて記憶が飛ぶ」感じです。
記憶が飛ぶというより、「自分の言葉で話してしまう感じ」です。
感情があふれ出て、言い回しが自然にふだんの自分の話し方になってしまうのです。
こういう時には、ヒゲ先生は絶対に止めたりしません。
僕らを否定するような言葉もかけません。それどころか、
「今の感じなら、この言い回しでも良いかもしれない」
と言うこともありました。
「ベテランの役者になると台本通りに読まないことがある」と聞きましたが、それは本当の意味で「役に入り込んでいる時」だけに許される高度なテクニックなんだと気付きました。
ヒゲ先生の中には明らかに、ハッキリした基準があることが分かりました。
ヒゲ先生の基準をひと言で言うと、
「全力でがんばっている人は否定されない」
ということです。
・・・つづく。
————————————–
コメントを残す