From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕が20才の頃、「鉄工場の作業員」から、「アクション俳優」に転職しようと決めて、「俳優養成所」に入った時のストーリーの続きです。
タレントスクールで演技のクラスに加えて、新しく実技クラスが始まりました。
最初のクラスは、まさかの「日本舞踊」でした。
僕ら受講生はてっきり、ヒップホップダンスや歌などの「いかにも芸能界っぽいスキル」の練習を期待していたので、ちょっと拍子抜けした感がありました。
でも、これは後になってから気付いたのですが、日本舞踊を学ぶことで、日本文化と西洋文化の大きな違いを知ることができました。
当時の僕はまだ、自分が将来英語を学ぶことになるとは夢にも思っていませんでしたが、
「日本と西洋の国は正反対の文化を持っている」
ことを、ダンスの世界を通して先に知ることができました。
日本舞踊の稽古スタート!
いよいよ、日本舞踊の稽古がスタートしました。先生は、60代後半~70代ぐらいの、元気な女性でした。
着物を着ていて、非日常感があります。
先生:「さぁ!では、さっそく始めましょう!皆さん、扇子を持っていますか?」
僕らは、静かにうなずいて、持ってきた扇子を手に取りました。
予想通り、何人か忘れてきた人もいます。
先生:「もし、扇子を持っていない方は、自分が扇子を手に持っているイメージをしながら動いてみてください。ただ、実物を持っている方が、やりやすいです。」
先生のしゃべり方は、ハキハキしている一方で、優雅さも感じます。ゆっくり丁寧にしゃべっているので聞き取りやすいです。
先生:「日本舞踊のポイントは、動くことではありません。動きを抑えることです。速く動きたくなるところを、ゆっくりに抑えたり、動きをピタッと止めたりするシーンが多く出てきます。」
そう言いながら、先生はちょっとお手本の動きをしました。
先生の動きは、僕が今まで見たことのないものでした。
盆踊りとはまったく違います。
すべての動きが計算し尽くされているような、優雅な動きです。
頭の先から手の指先まで、すべてがコントロールされているように見えました。
本物の日本舞踊を目の前で見たことのある人は、おそらくクラス内にはいなさそうでした。
「おぉー!」
という静かな声が、クラスルーム内の何人かから聞こえました。
先生:「この動きを、皆さんにはマスターしていただきます。」
内心みんな「え~!!こんなんできないよ~!!」と言っているように見えました。
割とスパルタ
先生は、優しそうな話し方と上品な立ち居振る舞いとは裏腹に、教え方はけっこうスパルタでした。
あまり細かい説明は抜きで、「私の動きを見て、繰り返しながら覚えなさい」的なスタンスでした。
とにかく何度も何度も動きを練習して、あまり休むひまがありません。
日本舞踊の振りは全体的にゆっくりですが、やってみるとけっこうしんどいです。
素早く動くよりも、動きをコントロールしながらゆっくり動いたり、ピタッと静止した状態を保つのは、筋力が必要です。
また、身体をひねった状態で止まったりするので、バランス感覚が必要になります。
日本舞踊の特徴
僕が日本舞踊の稽古を受けて気付いたことは、
・足はほぼ固定で、前後の左右の移動はあまりない。
・その代わり、手を大きく使って表現する。
・手の動きをさらに大きくダイナミックに見せるために、扇子を使う。
・手を動かしながら身体をひねることで、さらにダイナミックさを出す。
ということです。日本舞踊の特徴をひと言で表現するならば、
「下半身の動きは小さく、上半身を大きく使って表現する踊り」
という感じです。
この「下半身の動きは小さく」というのは、当時の日本人の「服装」が理由のひとつでしょう。
着物や浴衣のような服だと、どうしても足の動きは制限されます。
踊りは世界中のどの国にも、独自のものがあります。
そして踊りの動きの特徴は、その国の伝統音楽や服装などの文化と密接に結びついています。
「踊りを学ぶことは、その国の文化と歴史を身体全体で学ぶことになるんだな・・・」
ということを、僕はおぼろげながら感じていました。
・・・つづく。
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