From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕が20才の頃、「アクション俳優になろう!」と決めて、「俳優養成所」に入った時のストーリーの続きです。
ヒゲ先生の恐怖の「宿題発表タイム」が始まってから、次々と犠牲者が出てきました。
始まったばかりの初回は40人以上いたクラスメイトが、2回目のレッスンで一気に半分になり、3回目の今はもう、わずか15人になってしまいました。
ヒゲ先生に強制退室させられた人もいれば、自分からムリだと気付いて自主退室していった人たちもいました。
15人が1人ずつ前へ出て発表した場合、1人あたり3分間のストーリーを音読するので、約45分で終わる計算になります。
でもそれは、あくまで順調に進んだ場合です。
僕らが発表しているのを聞きながら、ヒゲ先生が黙っているわけはありません。
ちょっとでも言い間違えたり、イントネーションが違ったら、すぐに訂正させます。
しかも、どこが間違っているのか?本人が自分で気付くまでひたすら「もう一度!」と言い続けるのです。
その結果、人によっては3分のところが10分、15分ぐらいかかったりします。
その光景はまさに「公開処刑」という言葉がピッタリきます。
クラスメイトがヒゲ先生に怒られてボロクソに言われるのを目の前で見るのは、かなりツラいです。
特に自分の番がまだ回ってきていない場合、「今度は自分があんな目にあうかも?!」という恐怖で身体がこわばってきます。
しかも、次に誰が発表するか?はすべてヒゲ先生が選んで決めていくので、ランダムで予測ができません。それがまた、緊張感をあおります。
ヒゲ先生の評価ポイント3つ
僕はなかなか当てられず、ずっとドキドキしていました。
ただ、自分の前に何人か当てられて発表し、怒られるのを見るうちに、ヒゲ先生の特徴が見えてきました。
①イントネーションを間違えるとやり直し(標準語と違う場合)
②細かい言い回しを間違えるとやり直し(「~しかし」を「だが」と言ってしまったり)
③内容を一部飛ばしたり、間違えると言い直し(話が通じなくなる)
この3つが基準になっています。そして、間違えた瞬間にすぐ、「もう一度!」と言われます。
そして、自分で気付けるまで一切ヒントは与えません。
逆に言えば、この3点さえ押さえておけば、スムーズに進んでいけるのかもしれません。
なぜ、この3ポイントなのか?
そしてヒゲ先生は、何度も間違える人が出るたびに、この3つのジャッジ基準がなぜ重要なのか?を、怒鳴りながら解説しました。
①イントネーションを間違えた場合
ヒゲ先生:「役者にとってイントネーションはすごく大事なんだよ!あんたが栃木のなまりでしゃべれば、あんたの役の人物は栃木出身の人に見えちまう!本当はそんな設定ではないのに!
いいか、役者は台本通りに演じなきゃならないんだよ!自分の役が東京出身だったら、絶対に自分の地元のなまりを出してはならない。
もし自分の役が京都出身だったら、京都のなまりを必死で練習して身につけなきゃならない。
そういう世界なんだよ!だからもし、あんたが栃木なまりをここで克服できなければ、あんたはこの先、栃木出身の役の仕事しかもらえなくなる。
そんな狭い役しかできない役者じゃこの世界で食っていくことはできない。芸の世界をナメるな!」
※(ヒゲ先生は怒っている時、女性に対しては「あんた」と呼びます。怒っていない時には「君」)
②細かい言い回しを間違えた場合
ヒゲ先生:「おまえにとってはどうでもいい細かい部分かもしれないがな、台本を書いている脚本家にとっては、考え抜いた末の言葉選びなんだよ!
脚本家ってのはな、細かい言い回しでどう気持ちの変化を表現するかをすごく考えながら文章を書いてるんだ。
そんな考え抜いた言い回しを、役者のてめーが勝手に変えてみろ、脚本家はどう感じると思う?作品にどう影響すると思う?
役者はな、台本に忠実に演じるのが仕事なんだよ!台本を勝手に変えてしゃべっていいのは、ベテランの役者だけだ。
ベテランの役者は、脚本家の考えた深い部分まで理解した上で、さらに良い案としてアドリブを入れたり、言い回しを変えたりするんだよ!
そんな高度なテクニックを、ペーペーのおまえができるわけないだろ!まずは台本に忠実に話せるようになれ!そこからがスタートラインだ!芸の世界をナメるな!!」
※(ヒゲ先生は怒っている時、男性に対しては「おまえ」さらにヒートアップした時には「てめー」と呼びます。怒っていない時には「君」)
③内容を間違えると言い直し
※これは特に解説なし。「間違えてたらお話にならない」レベル。
という感じで、ヒゲ先生の解説は筋が通っていて、「なるほど!たしかに!」と思わされることばかりでした。
ただ、もう少し怒鳴らず普通のトーンで解説してくれても、こっちは理解できるのになぁ・・・と僕は内心思いました。
怒って色々言った後、ヒゲ先生は必ず「芸の世界をナメるな!」という決め台詞を放ちます。
一応、この決め台詞が「以上!お説教終了!」の合図のようでした。
これを言われたら解放される・・・ということが分かってきました。
・・・つづく。
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