From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕が20才の頃、「アクション俳優になろう!」と決めて、「俳優養成所」に入った時のストーリーの続きです。
ヒゲ先生の恐怖の「宿題発表タイム」が始まってからしばらく経ちました。
最初の方の発表者たちは次々と怒られ、何度もやり直しをさせられ、男女問わず涙を流す人たちが続出しました。
僕はなかなか当てられず、モヤモヤしていました。
恐い体験は後回しにしたい反面、いつまでも当てられずに待ち続けるのもツラいです。
待っている分、緊張する時間が長くなります。
おそらく、まだ当てられていないメンバーも僕と同じような気分だと思います。
みんな顔が引きつっています。
ヒゲ先生の評価基準は3つです。
↓↓↓
①イントネーションを間違えるとやり直し(標準語と違う場合)
②細かい言い回しを間違えるとやり直し(「~しかし」を「だが」と言ってしまったり)
③内容を飛ばしたり、間違えると言い直し(話が通じなくなる)
評価基準が分かっているからといって、完璧にできるわけではないのですが、何も知らずに発表するよりはマシです。
ついに自分の番が!!
ヒゲ先生:「次・・・新村真也!」
僕:「は、はい!!」
ついに僕の番がやってきました!だいぶ待たされましたが、一番最後というわけではありません。
おそらく後ろから3番目ぐらいだったと思います。一番最後よりはマシだな、と思いながら、前へ出ました。
緊張し過ぎて手が小刻みに震えているのが分かります。
発表エリアに立って、正面を向きました。
みんなが真剣な表情でこちらを見ています。
僕の左側には、ヒゲ先生の姿が少しだけ入っています。
(うぉっ・・・これは緊張する・・・)
僕は自分の心臓がバクバクしているのがハッキリ分かりました。
今まで半年間通って慣れ親しんでいるはずの教室が、まるで初めて来た場所のように感じられます。
今までのクラスでも、この教室内でひとりずつ前に出て演技をする練習を何度もしてきましたが、こんなに緊張したことはありませんでした。
今までの教室は、先生含めて和気あいあいとした雰囲気でした。
でも今はまるで、戦場にいるかのような「生きるか死ぬか?」みたいな緊張感が漂っています。
この状況になったらもう、家で覚えてきたことなんてすっ飛んでしまいそうです。
意識を保つので精一杯
あまり時間はありません。もたもたしていると、ヒゲ先生から「皆の時間を奪うな!」と怒りの矢が飛んできます。
僕はすぐに口を開き始めました。緊張で声が震えているのが自分でも分かります。
暗記してきた文章を読み上げながら、僕は自分の意識を保つことが精一杯でした。
緊張し過ぎて、頭の中が真っ白になってしまいそうになるのを、必死でこらえていました。
ちょっとでも気を抜いたらフワッと意識が飛んでしまいそうなぐらい、脳と身体が緊張しています。
「意識を保て!やってきたことを信じろ!!とにかく覚えてきたものを出すんだ!」
と自分に言い聞かせながら、必死で意識を保っていました。
おそらく「ボクシングの選手がダウンしてカウントを数えられている時」には、こんな気分なのかもしれません。
意識がもうろうとする中で、必死に立ち上がろうとする感じです。
不思議な没入感
そんな状態がしばらく続いた後、僕は不思議な経験をしました。
だんだん両目の視野が狭まっていき、今まで横にチラッと見えていたヒゲ先生の姿が見えなくなりました。
そして、それまで強烈に感じていた身体の感覚がだんだんマヒしていくのを感じました。
心臓のバクバク感も、手の震えも、声のかすれも、何も感じません。
意識はハッキリしているので、覚えてきた文章は口から出てくるのですが、身体の五感が薄れていくのです。
もしかして、緊張の余りこのまま倒れるのかな?と思いました。
小学生の頃、よく朝礼でバタン!と倒れて意識を失う生徒が何人かいました。
僕は今までそういう経験をしたことがありませんが、今は何となく分かる気がします。
このままヒザから崩れ落ちても、身体のコントロールができるとは思えません。
でも、しばらくたっても僕の身体は倒れませんでした。
意識はハッキリしています。ちゃんと覚えた文章をしゃべっています。
視野が狭まった分、ヒゲ先生が見えなくなってラクになりました。
僕は不思議な没入感を感じていました。
・・・つづく。
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