From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕がジーンズショップで働いていた頃、初めて英語のテキストを買って外国人のお客さん相手の英会話を経験した時のエピソードの続きです。
始めて買った英会話接客フレーズブックを使って覚えたセリフが通じて、アルバイトの大学生にも褒められて、僕はすっかり気をよくしました。
また米軍がやってこないかなぁ~!
という淡い期待を抱きながら、僕のモチベーションはググッと上がりました。
今までどおり、接客英会話フレーズのCDをかけながら、車の中で復唱する日々が始まりました。
強烈に記憶に焼き付いたフレーズ
今までと同じようにCDをかけていても、明らかに強く記憶に残っているフレーズと、もう忘れかけているフレーズがあることに気付きました。
僕の脳裏に強烈に焼き付いたフレーズはすべて、米軍兵士のお客さんたちを相手に使ったものばかりでした。
英語のフレーズと、それを実際に使った時の緊張感、相手に通じたときの興奮が、よみがえってくるのです。
手に汗びっしょりかきながら使ったフレーズは、一生焼き付いて離れないぐらい強く記憶に残りました。
これは、「エピソード記憶」と呼ばれるものです。初めての海外旅行など、自分自身の体験を通して心が動かされた出来事は、何年経っても忘れない、細かい情景まで思い出すことができる、なんてことがよくありますよね?
僕が今、こうしてブログであの頃の情景をハッキリ思い出せながら文章にできるのも、エピソード記憶の力です。
3種類の記憶
人間の記憶には、3種類あると言われています。
①意味記憶
②手続き記憶
③エピソード記憶
です。①の意味記憶は、いわゆる「お勉強」です。家で本を読んで暗記したフレーズは、意味記憶になります。
学生の受験勉強も、ほとんどがこの意味記憶です。
英単語をリズムや語呂合わせで覚えたり、別の記憶を手がかりにして記憶のフックに引っかける作戦も、意味記憶を利用した学習法です。
②の手続き記憶は、反復練習によって身につけた記憶です。当時の僕の場合は、通勤途中の車の中でCDをかけて反復しながら接客フレーズを覚えようとしていたので、この「手続き記憶」を使っていたことになります。
③のエピソード記憶は、まさに米軍兵士たちを相手に使った経験から焼き付く記憶です。
この、①意味記憶、②手続き記憶、③エピソード記憶
のうち、最も強力なのは、③のエピソード記憶です。
よく、「海外に住んでガッツリ英語漬けの生活を送れば、すぐしゃべれるようになる!」という実戦派の人がいますが、あれは主にこのエピソード記憶を使って覚えることを言っているんだと思います。
エピソード記憶の欠点
エピソード記憶は、確かにすごく強烈です。一度自分の体験の中で覚えた英語フレーズは、ずっと忘れません。
ただ、欠点が2つあります。1つ目は、「コントロールできない」ことです。
自分の身に起こることを完全にコントロールするのは難しいです。
たとえば、僕が「May I help you?」というフレーズと、それに対する返し方のフレーズを練習したかったとします。
その目的で外国人のバーテンのいるバーに行っても、そのバーテンの人が必ず「May I help you?」と言ってくるとは限りません。
むしろ、「Hey, what’s up?」みたいな、カジュアルなあいさつをしてくる確率の方が高い気がします。
すると、もうエピソード記憶を使って「May I help you?」を覚えることはできなくなります。
もうひとつの欠点は、「自分の心が大きく動かない時は、記憶も薄くなる」ということです。
たとえば、僕が英語力をアップして英会話スクール講師に転職して、さらにTOEIC900点を越えた時には、ネイティブと英語で会話するのが日常の一部になっていました。
そうなるともう、エピソード記憶の効果は薄れます。英会話をすること自体が日課になってしまうと、毎回心が揺さぶられるようなことはありません。
たまに盛り上がったりした時の会話内容やフレーズは覚えていますが、それ以外の80%ぐらいの会話内容は、ほとんど忘れてしまいます。
以上の2点、①自分でコントロールできない、②慣れると効果が薄れる、という部分が、エピソード記憶の弱点なのです。
でも、少なくともジーンズショップで働いていた頃の僕にとっては、米軍兵士との会話ひとつひとつが、すべてエピソード記憶として強烈に焼き付いていました。
・・・つづく。
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