From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
僕はカナダのバンクーバーに留学中、週末のバスツアーに参加しました。
集合時間の6時より早く着いてしまったので、早朝の薄暗い通りを、ウォークマンで音楽を聴きながら散歩していました。
美しい海沿いを歩きながら、僕は気分が良くなっていました。
僕はこのとき自分が、バンクーバーで最も危険ゾーンと言われる「ガスタウン」のすぐ近くまで来てしまっていることに、気づいていませんでした。
僕は、海沿いに張り巡らされた胸の高さくらいの白いフェンスに両肘をかけ、海を正面に見ながらボーッとしていました。
ふと、海の音を聞きたくなり、音楽を止めてイヤホンを耳から外しました。
ささやき声
すると、僕のすぐ後ろ30センチくらいのことろで、人のささやくような小さな声が聞こえてきました。
でも、僕はさっきまでここを歩いていましたが、このあたりに人の姿はありませんでした。
でも、人のささやくような声が、僕の耳のすぐ近くで聞こえてきます。
あれ?イヤホンは外したしな・・・耳鳴りかな??
と思いながら後ろを振り返ると・・・
ギャーーーーーーー!!!
と叫びたくなるような距離感(本当にすぐ目の前)に、恐ろしい姿をしたゾンビが現れました!!
いや、ゾンビではなく、人なのでしょう。でも、僕の目には本当に「バイオハザード」の世界に出てくるゾンビに見えたのです!!
それは、年齢がわからないくらいひどい外見になっている男でした。
白髪の長髪に、長く伸びたヒゲ。痩せこけた頬。ガサガサの肌。ボロボロに破れて黒く汚れた服を引きずっています。
何より怖いのは、その表情です!!目は焦点が定まっていません。目玉は少し上を向いた感じで、鼻水をダラーンと垂らしています。
完全に「いっちゃってる」感じの表情なのです!!おそらく、麻薬中毒者でしょう。
口がもごもご動いています。ささやくような小声で、呪文を唱えるような感じでずーっとしゃべっているのです。
まさに、映画でよく見るゾンビそのものです!!
本当の恐怖
映画だったら、「ギャーーーー!!」と叫ぶでしょう。でも、人間は、本当の恐怖を感じると、動けなくなってしまうようです。
僕は、あまりの恐怖に、声がまったく出せない状態になりました。
相手は焦点が定まっていないので、こっちを見つめているのかどうかすらわかりません。
でも、この距離感から察するに、どうやら僕を襲おうとしているようです!!
ミヤギさん登場!!
ゾンビ男を発見してからは頭の中が真っ白になっていましたが・・・次の瞬間!!
僕の頭の中になぜか、カラテ映画「ベスト・キッド」に出てくる、空手の達人ミヤギさんの顔が浮かびました!!
そして、ミヤギさんが僕に言いました。
「相手から目をそらすな!怖くても目をそらすな!」
「はい!ミヤギさん!」(←心の声で返事)
僕はそのまま、ゾンビ男の目を見つめながら、ゆっくりとすり足で横へ移動しました。
なぜなら、すぐ後ろは柵があるので、バックステップで逃げることはできないからです。今の僕の体勢は、前はゾンビ男&後ろは柵で挟まれています!!
この「サンドイッチ状態」だけは脱しなければなりません!
ゾンビ男はまだ、小声でもごもごしゃべっています。すぐに襲いかかってくる気配はありません。
僕は、両方の拳を握りしめ、空手の正拳突きがいつでもできるよう準備をしました。
ただし、ファインティングポーズを取ると相手を刺激することになるので、両手は下におろしたまま、拳だけ準備しました。
麻薬のパワー
よく見るとゾンビ男は痩せてヒョロヒョロしています。それほど力がありそうには見えません。
でも、麻薬中毒者なら五感がマヒして痛みやダメージを感じないはずです。
昔、ある雑誌で読んだ記事に、こんなことが書いてありました。
「暴れている麻薬中毒者は、銃で撃ってもなかなか死なない。野生の熊よりも恐ろしい。」
今僕の目の前にいるゾンビ男も、麻薬のパワーで筋肉の最大能力が引き出されている可能性があります。
見た目からは信じられないくらいの怪力を発揮するかもしれません。
僕はそのまますり足で左側に進みながら、ゾンビと身体の位置を入れ替えました。
こんどはゾンビ男が柵を背負う形になりました。
ここまで僕は、ミヤギさんの教えを守って、一瞬たりともゾンビから目を離していません。
ゾンビの恐ろしい目を見続けるのはとにかく怖いですが、もし相手が何かアクションを起こすときは、必ず目に変化があるはずです。
最後の決断
ポジションを入れ替えたことで、僕には2つの選択肢ができました。
①このまま何もせずダッシュで逃げる。
②ゾンビ男の足にローキックしてダメージを与えて動きにくくしてから、ダッシュして逃げる。
もし、相手が麻薬によって増幅された超人的な運動能力で追いかけてきたら、逃げ切れません。
かといって、もしそうならローキックも効かないでしょう。ローキックで自分の足もダメージを受けたら、走れなくなってしまいます。
僕は、何もせずにこのまま逃げることにしました。
ミヤギ式:逃げ術
かといって、すぐに敵に背中を向けるのは危険です。目をそらした瞬間、相手が飛びかかってくるかもしれません。背後を取られたら勝ち目はありません。
僕の頭の中には、まだミヤギさんがいました。
そして、「ミヤギさんがダニエルさんを連れてコブラ会の道場に示談しに行ったとき、道場の悪徳師範と口論した後に帰るシーン」が思い浮かびました。
ミヤギさんはこのとき、すぐに相手に背を向けることなく、相手の目を見ながらゆっくりと後ろに下がり、十分な距離を取ってから後ろを向きました。
僕も同じようにしました。ゾンビから目をそらさずに、そのままゆっくりと下がり、5メートルくらい距離を取ってから、後ろを向いて一気にダッシュしました!!
ダッシュしながらも、チラッと後ろを見ました。
猛スピードで追っかけてくる!!なんて状態は怖いです!!追いつかれたらもう、戦うしかありません!!
しかし、相手はさっきいた場所からまったく動く気配がありません。
僕はどんどん遠ざかっていき、ゾンビ男は豆粒くらいの大きさになりました。
ふと周りをよく見ると、他にもゾンビっぽいやつらが徘徊しています!!
なんだとぉーー!!いったいこいつら、どこから出てきたんだ?さっきまでこの辺誰もいなかったのに!!
まさに暗闇から現れるゾンビです!!
なんてこった!!とんでもないゾーンに来てしまった!!
僕は一心不乱に、さっき来た道を突っ走っていきました。
ゾンビたちは動きが鈍いようです。足を引きづりながら、すり足で歩いています。でもまたその姿が、リアルなゾンビっぽいのです!!
マジでバイオハザードの世界だ!!
僕は、生まれて初めて感じる「本当の命の危険」に、背筋が凍り付くのを感じました。
安全ゾーン
僕は、最初の場所までダッシュで戻りました。その場所は、明るい照明の建物があり、広いホールのようになっていて、誰でも中に入れるようになっています。
僕はその中に、命からがら駆け込みました。ふと外を見ると、もうバスも来ています。
この明るいゾーンには人がいるため、どうやらゾンビたちも入ってはこれないようです。
僕の心臓は飛び出しそうなくらい、バクバクしています。
ここにいると、さっきまでのゾンビとの出来事がウソのように感じられます。
まさに、安全シェルターに逃げ込んだ気分です。
それにしても・・・
もしあのとき、ウォークマンを耳から外すタイミングがちょっとでも遅かったら・・・そう思うと、ぞっとします。
それ以来、僕はよほど明るい時間帯で完全に安全だと思える場所以外では、ウォークマンを聴くのをやめました。
光と闇
僕はこのとき、「世界一美しい街」と呼ばれる、きらびやかで豊かな大都会バンクーバーの街の裏にひそむ、闇の部分を見た気がしました。
英語圏の中では安全と言われるバンクーバーでさえも、これだけの危険があります。貧富の差が生み出したダークサイドです。
僕は自分がこれまで日本でいかに平和ボケをしていたかを思い知りました。
この日から僕は、ピリッと気を引き締めて生活をするようになりました。
(実は、これとは真逆で、カナダには「超安全な地域」もあることを体験することになりましたが、それはまだ、だいぶ先になってからの話です。)
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From 師範代Shinya(新村真也)
(英語の達人養成ジム 師範代)
P.S.
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