From 師範代Shinya(新村真也)
(→前回のつづき)
※僕が24才の時にHIPHOPダンススクールに通い始めた頃の体験談の続きです。
夏祭りのダンス発表会に向けて練習を始めた僕とY君は、好きなダンスチームの好きな振り「スーパーマリオダンス」の完全コピーを目指しました。
僕らが好きなダンスチームは、ダンスの全国大会の優勝者です。
僕らは自分の実力をはるかに上回る振りを習得しようとしていました。
振りのコピーは、めちゃくちゃ大変でした。
動きが今までに見たことないものが多く、さらに1つ1つの動きがなかなかマネできないのです。
たとえば、右手を遠くに伸ばして、左手は腰につけて、というような表面的な動き(身体の形)はマネできます。
でも、自分がやってみると、何かが違うのです。
お手本のダンサーは、1つの動きの中に緩急があったり、粘り着くような動きに見えます。
でも、僕がやると平坦な動きにしかなりません。
僕は自分の動きをビデオカメラで撮影して、お手本のダンサーの動きと何度も見比べながら、色々と身体の動かし方を研究してみました。
でも、どうしても違いを埋めることができませんでした。
おそらく、表面的な動きだけを繰り返していても、この違いは埋められないのだと思います。
お手本のダンサーたちはおそらく、別のジャンルのダンスも極めていて、その「身体の使い方」だけを今の振りの中に入れているんだと思います。
たとえば、今僕らがマネしているスーパーマリオダンスのジャンルは、HIPHOPダンスです。
でも、おそらくこの緩急のある動きは、HIPHOPダンスよりずっと前に生まれた「POPダンス」の中にある「筋肉を弾く動き」「身体をピタッと止める動き」が混じっているように見えました。
さすがに全国ダンス大会で優勝する実力者チームは違います!
1つのジャンルを極めるだけではなく、別ジャンルのスキルを融合することで、さらに深みを増しているように見えました。
カンペキにできなくても楽しい!
見れば見るほど、自分のダンススキルとお手本ダンスチームのダンススキルには大きな差を感じました。
でも僕らにとっては、楽しさの方が上回っていました。
カンペキにできなくても、いかに彼らに近づけるか?をY君と競い合っていました。
その過程がモーレツに楽しく感じました。
とりあえず、うわべだけでもスーパーマリオダンスをマネできれば、今の自分たちにとっては十分に「カッコいい」と感じられます。
テストはない
ダンスには、勉強のように実力を数値化するテストがあるわけではありません。
ビデオで見たダンス全国大会の審査基準も、単に個々のダンススキルだけではなく、
・振り付けの面白さ
・BGMの選曲
・見ている人が楽しくなる雰囲気
・ステージ衣装
などなど、色んな要素を総合的に判断して、優勝者を決めているようでした。
そして何より、「ダンサー本人達が楽しんでいるのが伝わってくることが一番大事!」だと、審査員のサムさんが言っていました。
ダンサー本人達が楽しんでいるからこそ、見ている人達にもそのワクワクが伝わって、会場全体に一体感が生まれます。
それがストリートダンスの文化なんだと言っていました。
ダンスは本来、楽しいものだと。
僕はその文化にすごく共感できました。
他のジャンルのダンス、たとえばバレエなどは、先生にすごく厳しく指導されるイメージがあります。
演技でも、できるだけミスをしないように、決められた振りをカンペキにこなすことを求められる雰囲気です。
僕はバレエを習ったことがないので本当のところは分かりませんが、テレビのドキュメンタリー番組を見る限りでは、練習も発表会もそんな厳しい雰囲気でした。
もちろん、エンターテイメント業界のプロとしてステージに立つ人達を養成する場であれば、厳しさが求められるでしょう。
また、バレエのような伝統文化は、正確さが何より大事だというのも、わかります。
一方で、ストリートダンスには「こうしなければならない」という決められた型はありません。
もちろん、ある程度基本のステップなどはあります。
でも、その基本ですら、「いかに崩すか?」「いかに自己流にやるか?」が高く評価される世界です。
そして、振り付けに関しては、いかにオリジナリティーを出すか?が大事になってきます。
次の動きが予測できる振り付けではなく、みんなの予想を裏切るような動き・・・「おぉ!そこでその動きを入れるか!!マジかぁ~!」と言わせるような振り付けが、高く評価される世界なのです。
僕が感じたストリートダンスの世界を一言で表すと、「自由」でした。
自由であることが良しとされ、自由を表現できるダンサーが高く評価される、だからこそ、一定の基準で実力を測る「テスト」は存在しない。
そんな世界は、僕にとって初めてでした。
今思い返せば、この時から僕は西洋文化に対する憧れを抱き始めていたんだと思います。
でもまだ、この時点ではさすがに「英語を学ぼう」とまでは、考えつきもしませんでしたが・・・
・・・つづく。
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