【いらっしゃいませは英語にはない】

From  師範代Shinya(新村真也)
 
(※僕が英会話スクール講師に転職してからの体験談です)
 
(→前回のつづき)
 
僕は、英会話スクールで働き始める前には、こんなイメージがありました。
 
 
「同僚がネイティブになったら、英語を使い放題じゃないか!
 
 
きっと、日本人の英語の先生は、休みの日にもネイティブ講師と一緒に遊んだりして楽しんでいるに違いない!」
 
 
ところが・・・実際に入ってみると、そうでもありませんでした。
 
 
僕の同僚のアメリカ人講師のモーガンは、休みの日は割とひとりで過ごすことが多いようなのです。
 
 
僕のいたスクールでは、日本人の英語講師とマネージャー達はみんな女性でした。
 
 
僕が入る前は、ネイティブ講師のモーガン1人だけが男性でした。
 
 
モーガンは、実は色んな所に行きたいと思っていたようですが、「連れてって!」とはなかなか言えなかったようです。
 
 
また、モーガンは日本語がまったく理解できないため、自分で情報を調べて観光に行くモチベーションもないようでした。
 
 
モーガンは、僕が入ってきたことを喜んでいました。
 
 
そこで僕らは、休日に男同士で出かけて楽しむようになりました。
 
 
 

御殿場アウトレット

そこで僕は、モーガンを地元で有名な「御殿場アウトレット」に連れて行くことにしました。
 
 
ここは、グッチやドルガバといった有名なブランド服やバッグ、靴などを、安く売っている店が集結しているエリアです。
 
 
元々は遊園地だった敷地を改装して作ったので、ものすごい広さで、観覧車にも乗れます。
 
 
山の中にあるので、見晴らしも良く、空気もおいしくてレジャーにピッタリな場所です。
 
 
お店の数は、80店舗くらいあります。とても1日では全部回りきれないくらいです。
 
 
モーガンはその御殿場アウトレットを見て、
 
 
「おぉ!ここはアメリカみたいだ!」
 
 
と言っていました。(たしか、ここはアメリカの外資系企業だったと思います)
 
 
 

ビックリ!モーガン

モーガンがこのアウトレットで一番驚いていたのは、お店の規模や数ではありませんでした。
 
 
モーガンが驚いていたのは、店員さんの「いらっしゃいませ!」です。
 
 
僕は以前はジーンズショップで働いていたので、特に違和感はないのですが、洋服屋さんの「いらっしゃいませ!」は、かなりハイテンションです(笑)
 
 
もちろん、お店の雰囲気や店員さんの個性にもよりますが、基本は大きな声で全員が「いらっしゃいませー!!」と叫ぶことが多いのです。
 
 
この声のデカさに、モーガンが毎回ビクビクしていました。
 
 
モーガンが洋服に手をつけた瞬間に、近くで店員さんが「いらっしゃいませー!!」と叫ぶと、モーガンはビクッ!として手を離していました。
 
 
どのお店に入ってもそんな調子なので、モーガンは気になって洋服を触ることもできなくなっていきました。
 
 

英語に「いらっしゃいませ」はない

しばらくすると、モーガンは僕に聞いてきました。
 
 
モーガン:「彼らはいったい、大声で何を言っているんだ?」
 
 
僕:「ん?どのセリフ?」
 
 
モーガン:「いら~何とか!って叫んでるやつ。」
 
 
僕:「あ-!いらっしゃいませ!か。」
 
 
モーガン:「そうそう!それ!」
 
 
僕:「あれはね、英語で言うところの、May I help you? だよ。」
 
 
モーガン:「え?違うでしょ?」
 
 
僕:「いや、そうだよ。だって、接客英会話の本にそう書いてあったし、実際に欧米では店員さんはそう言いながら接客してくるでしょ?」
 
 
モーガン:「いや、違うな。May I help you? は、お客さんひとりに向かって優しく問いかける質問だよ。」
 
 
僕:「あ、たしかに。」
 
 
モーガン:「あれは、日本語で本当に May I help you? って言ってるの?」
 
 
僕:「いや、正確には違うね。いらっしゃいませを直訳すると、Welcome to our store.が一番近いかな。たしかに、英語ではそのセリフは言わないよね。じゃあ、英語にいらっしゃいませは、ないね。」
 
 
 

日本文化

モーガン:「あれは、Welcome to our store.って言ってるの?マジで?!」
 
 
僕:「そうだよ。」
 
 
モーガン:「なぜ??そんなに前向きな言葉を、なぜあんなに怒鳴りつけるような声のトーンで叫ぶの?」
 
 
僕:「怒鳴ってるつもりはないと思うけど・・・まあ、店員さんがデカい声を出す店は、元気が良いってイメージがあるからね。」
 
 
モーガン:「いやいや、デカい声って言っても、ふつうに目の前にいるお客さんに届く声で十分でしょ?」
 
 
僕:「あれは、一対一でしゃべってるわけじゃなくて、一対多数なんだよ。つまり、『店員さん1人』が、『店内にいるお客さん全員』に向かってあいさつをしてるわけ。」
 
 
モーガン:「えーーー!!それって、日本ではアリなの?個人を無視して、常に全体に向かってスピーチしてるってことだよね?お客さんに失礼にならないの?」
 
 
僕:「う~ん・・・まあ、ならないね。」
 
 
 

個人主義

僕はここで、欧米の個人主義の文化がこんなところにまで根付いているんだと思いました。
 
 
欧米では、お客さんひとりひとりに対して店員さんが個別に接客することを「良いサービス」だと考えているようです。
 
 
なので、欧米の店員さんは、決して大声でお客さん全員に向かって、
 
 
May I help you————!!!!
 
 
なんて叫んだりしません。
 
 
日本では、
 
 
大声を出す=気合いが入っている=活きがいい=ヤル気がある=良い店員(社員)
 
 
みたいな図式があります。
 
 
でも、欧米では、大声を出すシーンは、ケンカなどです。
 
 
それ以外のシーンでは、「その場にふさわしい声のボリュームとトーン」でしゃべるのがマナーだと教わるようです。
 
 
なので、日本のお店のように、お客さんの数メートル手前で、店内に響き渡るような大声で「いらっしゃいませー!!」なんて叫ぶのを聞くと、
 
 
「この人は俺を怒っているのか?」
 
 
「俺は何か悪いことをしたのか?」
 
 
と怖くなるようです。
 
 
そういえば、僕も昔、御殿場の米軍基地の近くのお店で働いていたときに、米軍のムキムキマッチョな兵士たちが来店したとき、僕らの「いらっしゃいませー!」に反応して、目を見開いてビクビクしていたのを思い出しました。
 
 
あれはきっと、「怒られている」と思っていたんですね。
 
 
もしあなたが、お店で働いていて、欧米人が来店したら、いらっしゃいませは言わずに笑顔で「こんにちは」と挨拶するか、言うとしても小さな声にしておいた方がいいかもしれません。
 
 
・・・つづく。
 
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